2009年1月22日木曜日

追悼

 宮城県白石市の喫茶店「たる・たる」の店主、河戸誠さんが急逝された。

 代えることのできない街の灯火がこつ然と吹き消されてしまった喪失感と、一杯の珈琲で人と人を結んできたお店を営まれてきた故人を偲び、心からご冥福をお祈りします。

 愛知県から志半ばで帰郷してしばらく、当ても無い生活を送る日々の中で最初にたどり着いた「場所」であった。大事な人間関係がここで芽生え、今につながっている。このお店からこの地域の暮らしが始まったといってもいい。

 その後どうにか仕事としてなりたつ身となり、ある日忙しくカウンターで図面のアイディアをスケッチしていた時、
「そうしている姿を見ることができるようになって、なんだか嬉しいな」
と笑顔で珈琲を差し出してくれた。その眼差しと珈琲の深く温かな味、こみあげてきた胸の熱さを昨日のように覚えている。

 先日の告別式に集まった会葬者には同じような想いを抱いている方が少なくないことを知る。改めてこの街の大事な「魅力ある場所」が大きく失われてしまったことに、実にやりきれない想いがこみあげる。最近は年に数度しか来店できなかった私ですらそうなのだから、近親者の方、ご常連の方のご心痛はいかばかりか、と思う。マスターの深く響く声と優しい笑顔を思い出し、虚しく広がる青空を見上げるしかなかった。

 式の後、名残惜しくお店の前に立つと、入り口では鮮やかにパンジーの花が揺れていた。死の床にあってもお店の再開にこだわり続けたと聞く。
ここには誠さんの魂がまだ息づいている。

この結びついた人の想いが集う場所をどうにかできないものか。
今、私がテーマとしている「人と人が共有できる場所」と重なり合ってこの現実に深い意義をかみしめている。
「君はそこにいていいんだよ」
と許される場所をこの世界に創り出していかなくてはならない、と。

ただ今は万感の想いを込めて話しかけたい。

マスター、美味しい珈琲をありがとう。
ごちそうさま。

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