2006年1月10日火曜日

つくり初め


ここ数年、木版画で年賀状を作っている。
そして今回も明けて元旦からの製作となった。

一年に一度の版画づくり。
昨年はプライベートで記念すべき年となったので、4版刷りと気合いが入る。
元朝参りもそこそこに、ただ一心不乱に下絵を描き、板を彫り、バレンでこすり続ける。
日が昇りあっという間に西に沈み、雪がどっと吹いては、太陽に溶けていく滴の音を聴いた。
そして気が付けば外出せぬまま正月休みの殆どを使い果たしてしまった。
もったいない時間の使い方だが、僕はずっと幸福な気分に包まれていた。

 人とは会えなかったが、板や彫刻刀やインクと話した。
 正月映画は観なかった、自分の内なる世界とじっくり向き合えた。
 遠くには行かなかったが、ものづくりの奥深い道程を知った。

稚拙で、自己満足な行いには違いないけれど、新年の初めに書き初めならぬ「つくり初め」をしたわけで、ものづくりの端くれとしては価値ある時間を過ごせたように思う。
そして明けて知るのは、いかに僕たちの生活というのは真逆の「消費」の世界に包まれているか、という窮屈な事実であった。
正月は地獄の釜が開いているといって、松の内は派手に振る舞うことを慎んだというが、ものを買いあさり、美食大食を貪るような人の姿を見ると、坂本龍一が新年のラジオで呟いた「消費者という名の奴隷」という言葉が眼前にちらつき、思わず背中に寒いものを感じてしまう。

アーツ&クラフツ運動の提唱者、ウィリアム・モリスは遙か昔に大量生産品の粗雑さに失望し、手業の復興から人間性の復権を目指したという。
その思いは「版画づくりの荒行(笑)」を終えた私には親戚の叔父さんの言葉のように身近に感じられる気がした。

いつまで続けられるか分からないが、次の年も、そのまた次の年も版画を彫ろうと思う。
でも肩コリが辛いのでせいぜい2版にとどめます。